WADA cord改定に関する研修会参加報告

水泳トレーナー会議会員
広島大学大学院 保健学研究科
大林 弘宗

 今回、広島県体育協会主催の研修会においてWADA cordの改定に関する情報を得る機会がありましたので、会員の皆様へご報告いたします。
 2009年1月1日より、国際アンチドーピング機構(WADA)の規定であるWADA cordが改定されました。今回の改定の注目すべき点として、TUE(Therapeutic Use Exemption)規定の変更と、静脈内注入についての二点があげられます。
 まず、TUEについてです。ご存知のとおり、前年までは喘息の治療薬である吸入ベータ2作用薬やと糖質コルチコイドの局所使用(関節内注射、局所注射、吸入)については略式TUEの申請が必要でした。しかし、吸入ベータ2作用薬については通常TUE申請が必要となり、糖質コルチコイドの局所使用は、ドーピング検査の公式記録時に申請するのみで、TUEの申請は不要となりました。そのため、略式TUE申請は廃止されます。どちらのケースについても、対象の薬剤を使用している選手も多く、書類上の取り扱いに変更が生じたことは注意すべきであると思います。
 もう一点、静脈内注入についての規定変更がありました。2007年にJリーグにおいて静脈内注入によるドーピング違反が取り上げられて以降(現在はスポーツ仲裁裁判所の裁定により、処分撤回)、特に厳しく禁止されていたように感じております。今回の改訂においても原則禁止であることに変更はなく、使用した場合には通常TUE申請が必要となります。しかし、① 蘇生手技を含む救急処置、② 失血に対する血液代用液または血液の投与、③ 外科的処置、④ 他の投与経路が不可能な場合(難治性の嘔吐等)の薬物および液体の投与で、それらがgood medical practice に従うものである場合、の4点についてはTUE無しでの使用が許可されることとなりました。とはいえ、運動による脱水などのスポーツ場面でよく起こりうる状況においては以前と同様に禁止であり、使用は慎重に行うべきであるとのことでした。
 以上2点が大きな変更点でしたが、そのほかにもドーピング検査の手順や、禁止薬リストにも変更が加えられました。情報を正しく得るためにも日本アンチドーピング機構のホームページ(http://www.anti-doping.or.jp/)をご覧になっていただければと思います。
 医師の帯同のない遠征では、我々トレーナーがドーピングコントロールにかかわることも多くあります。また、選手にとって身近な医療従事者であるがゆえに、ドーピングについての質問を受けた経験もあるのではないでしょうか。そういった場面において、誤った情報を与えることは選手の競技人生を狂わせるかもしれません。今回のような講習会に参加することで、常に最新の情報にアップデートしておくことが必要であると感じました。